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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens

Aozora Bunko

「親分、壁にも箪笥の裏にも血は付いてますがね、傷はありませんよ。刀を抛り込んだんじゃなくてそっと入れたんですね」

ガラッ八は大きな声を出します。

「よしよし、――それからお前は皆んなの書いたものを集めてくれ。小僧のも、下女のも、一つ残らずだよ」

「ヘエー」

ガラッ八が店の方へ行くと、平次は血染めの脇差を取上げて死骸の傷口と睨み合せながら、頻りに首を傾げております。

「この脇差は誰のだえ、番頭さん。恐ろしいなまくらのようだが」

「主人のでございます。いつもその箪笥の上の抽斗に入れて置きました。恐ろしいなまくらで、犬脅かしでございます」

「その上ひどい錆だね。これで切られちゃなぶり殺しだ」

「ヘエ――」

そう言いながら平次は箪笥の上の抽斗をあけて見ました。と、そこにはこの脇差のものらしい、こればかりはピカピカする蝋塗りの鞘が一つ、無造作に入れてあったのです。

「おやおや、中身だけ持出して咽喉を突いたのか」

たしなみのよくない自害――平次はそういった心持で、もういちど死骸を改めました。

「戸締りには何の変りもなかったのだね」

「ヘエ、みんな内から締っていたそうで。これは朝、雨戸を開けたお山が、よく知っております」