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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十五)茶碗割り
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十五)茶碗割り (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 109,804 characters · 225 screens
平次の調子は低いが身に沁みます。
「面目次第もございません。親分さん、私は先刻、庭に立って伊勢屋の話を聴いてしまいました。見下げ果てた男だと思った婿の伊勢屋新兵衛が、私などよりはよっぽど良い男と判って、私は穴へでも入りたい心持でございました。一たんの過ちから、賀奈女などに溺れたのは、悪いには違いありませんが、死ぬほどの目に逢いながらそれを許してやった娘も立派なら、今となって娘の貞女に思い当り、死んだ気で働こうという伊勢屋も立派な男でございます。それに比べると、私は、私は――」
「あ、待った」
言う間もありませんでした。駱駝のような感じの喜三郎老人は、思いのほか敏捷に立ち上がると、平次と八五郎が留める間もなく、身を翻してざんぶと川の中へ――。
「八、飛込め」
朧月の影を砕いて浮きつ沈みつする喜三郎。
「駄目だ、あっしは御存じの徳利で」
「仕様のない奴だ、泳ぎくらいは稽古しておけ」
クルクルと裸になった銭形平次は、場所を見定めて同じ春の水へパッと飛込んだのです。
*
それから十日二十日と日が経ちますが、踊の師匠水本賀奈女を殺した下手人はとうとう挙がらず、平次は神田っ子と八丁堀の役人からさんざん小言を言われながら、尻をあげようともしません。