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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十五)茶碗割り
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十五)茶碗割り (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 109,804 characters · 225 screens
三
三
「た、大変ッ」
「親分、ちょいと来て下さい」
階下から、急に、遽しい声。
「なんだなんだ」
八五郎と新吉が梯子段をころがるように降りて行くと、六畳では用心棒の力松を中心に、番頭の周助以下五六人の者が、何やら滅茶苦茶に揉み合っているのです。
「力松が腹を切るって言うんです」
「止めて下さい。親分」
見ると大肌脱ぎになった力松の手から、五六人の者が匕首をもぎ取ろうと必死の騒ぎです。
草角力の大関で、柔術、剣術一と通りの心得はあるという触れ込みで雇われた力松が、刃物を持っているのですから、これは容易ならぬことでした。
「止せ。――止さないか、力松」
新吉が声を掛けると、力松はさすがにがっくり首をうな垂れます。匕首はいつの間にやら奪い去られて、真夏ながら逞しい大肌脱ぎが寒そう。
「相済みません。――でも親分方、旦那が殺されたのは、何と言ってもあっしの油断ですぜ。――高い給金を貰って、旦那の命を預かっていながら、こんなことになっちゃ申し訳がねえ。せめて腹でも切らなきゃ」
力松はそう言って口惜しがるのです。一国らしい中年者で、田園の匂いが全身に溢れるだけに、この男に嘘があろうとは思われません。