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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十五)茶碗割り

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十五)茶碗割り (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 109,804 characters · 225 screens

Aozora Bunko

三

平次は半次と助七を引っ立てるように、薄暗くなりかけた街へ飛出し、向柳原へ急ぎながらつづけました。

「――二人は別として、水本賀奈女をうんと怨んでいた者が他にあったはずだ、心当りはないのか」

「そりゃ、たくさんありますよ」

「例えば?」

「師匠と一年でも半歳でも一緒に暮した、伊勢屋新兵衛などは、良い身上を潰した上、女には捨てられ、女房には死なれ、日傭取のようなことをしながらそれでも遠くへも行かず、賀奈女の阿魔が誰かに殺されるのが見たいと、恥を棄てて町内に齧り付いていますよ。なアに、有りようは、他所ながら師匠の顔が見ていたいんで――」

助七はそんな事を言いながら、ニヤリニヤリと笑うのです。

三

向柳原の水本賀奈女の家というのは、町の懐ろの中へしまい込んだような深い路地の奥で、小体ながら裕福に暮していたらしく、磨き抜いた格子にも、一つ一つの調度にも、妙に艶かしさと不健康な贅沢さとが匂います。

家は入口の三畳の外に、賀奈女が殺されていた居間の六畳、あとは踊舞台をおいた八畳と、納戸代りに使っている暗い三畳、それに台所だけ。灯を一パイに点けて、ザワザワと入が集まっておりますが、あんなに喰い付いていた狼連は薄情にも顔を見せず、町内付合いで仕様事なしの老人たちが、型通りの仕度をととのえて検屍を待っているのでした。