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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
(三十五)
」
「じゃア、俺の女房にはならないのか。」
「知れたことさ。」
お葉は罵るように答えた。
(三十五)
獣のような重太郎と相対しているお葉は、頗る危険の位置にあると云わねばならぬ。彼の情が激して一旦其の野性を発揮したら、孱弱い女に対して何んな乱暴を敢せぬとも限らぬ。
お葉もそれを知らぬでは無かったろうが、彼女も或時には其の野性を遠慮なく発揮する女であった。或時には坑夫や土方を客にして、負けず劣らずに乱暴比べをする程の勇気を有っていた。彼女は大抵の男を恐るるような女では無かった。昨日彼のお杉に対して殆ど絶対的の服従を敢したのは、自分にも判断の付かぬ一種不可思議の心理作用に因った為で、醒めたる後の彼女は依然として強い女であった。
況てお杉はここに居ない。わが目前の敵は重太郎一人である。たとい這奴が山の同類にした所で、一人と一人との勝負ならば多寡の知れたものである。罷り間違ったらば、其の喉笛にでも啖い付いて与るまでのこと。勝負は時の運次第と、彼女は咄嗟の間に度胸を据えて了った。
対手が斯ういう覚悟で居ようとは、重太郎は夢にも知らぬ。彼は母に甘える小児のような態度で、飽までもお葉に附纏った。