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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
(十九)
市郎の人工呼吸其他の応急手当が効を奏して、彼女は間もなく息を吹き返した。
「どうだ、既う気が注いたか。」と、巡査が問うた。
「何、死ぬものか。」
独語のように云って、お杉は矗然と起ち上ったかと見る中に、左右の人々を一々睨め廻しながら、彼女はふらふらと歩き出した。加之も今の騒動は忘れたように、諷然と表へ出て行った。居合わす四五人は其後を尾けて行くと、お杉は顧りもせずに、町の真中を悠々と歩いていた。
町の尽頭まで来た時に、お杉は初めて立止った。尾行して来た人々も既う散って了った。お杉は柳屋の門に寄って、皴枯れた声で、
「お葉さん、居るかい。」
(十九)
思うがままに恋の仇の冬子を呵責んだお葉は、お清に扶けられて柳屋へ帰った。
「お前さん、随分酷いことを為たねえ。」
「ああ、これて清々した。」と、お葉は酔醒の水を飲んだ。お清は惘れて其顔を眺めている処へ、彼のお杉婆の声が聞えたのである。
「お葉さん……お葉さん。」
わが名を呼ばれて、お葉はふらふらと起った。お清は慌てて其袂を曳いた。
「お止しよ、お前さん、もう外へ出るのは……。あんな奴にお構いでないよ。」
「お葉さん。」