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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
(五十八)
茅葺、板葺、瓦葺の嫌いなく、隣から隣へと屋根を伝って、彼は駅尽頭の方へ逃げて行った。
追手は漸次に人数を増して、前から後から雪を丸めて投げた。此の雪礫を防ぐ手段として、重太郎も屋根から石を投げた。雪国の習として、板屋根には沢山の石が載せてあるので、彼は手当次第に取って投げた。石の礫と雪の礫とが上下から乱れて飛んだ。
而も敵は益々殖えるばかりである。何処も同じ彌次馬が四方から集って来て、警官や忠一等に声援を与えた。其中に長い梯子を持出して来る者もあった。塚田巡査は靴を脱いで屋根に登った。二三人の消防夫も続いて登った。斯う肉薄して来られては堪らぬ。重太郎も流石に根負がして、遂に屋根から飛び降りた。但し往来の方へ出るのを避けて、彼は裏手の方へ飛んだ。
(五十八)
重太郎の飛び降りたのは、美濃屋という雑穀屋の裏口であった。追手の一組は早くも駅尽頭の出口を扼して、他の一組は直ちに美濃屋に向った。ここらの町家は裏手に庭や空地を有っているのが習であるから、巡査等は同家に踏込んで先ず裏庭を穿索した。が、縁の下にも庭の隅にも重太郎の姿は見えなかった。
見えないのも道理で、重太郎はここへ飛び降りると、直に垣根を乗越えて、隣から隣へと四五軒も逃げた。