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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
(三十七)
お前が真実に金持になれば、どんな良いお嫁さんだって貰えるんだから……。妾よりも若い、最っと綺麗な人がお内儀さんに能るんだから……。」
重太郎は頭を掉った。其眼には熱い涙を湛えていた。
「判らないの。」と、少しく持余したようなお葉の声も湿んで聞えた。
可哀想ではあるが、何時までも際限が無い。お葉は捉られたる袂を払って、
「じゃア、左様なら。」
重太郎は追掛けて、又其の袂を捉えた。
(三十七)
お葉を追い捉えた重太郎は、定めて破れかぶれの乱暴を始めるかと思いの外、彼は矢はり温順い態度であった。が、其の湿んだ眼は一種異様に輝いていた。
「お葉さん。どうしても帰るのか。」
「今も云ったような訳だから……。」
「どうしても帰るのか。」と、重ねて念を押した重太郎の声には、低いながらも力が籠っていた。
彼も恐く最後の決心を固めたかも知れぬ。涙の眼は漸次に乾いて、険しい眉の間に殺気を含んで来た。物を奪い、人を殺す位のことは、彼等の仲間では別に不思議の事でもない。
お葉も其の眼色を早くも悟った。
「お前さん、妾を殺す気かい。」
重太郎は黙っていた。
「殺すなら殺しても可いよ。だが、力づくで乱暴を為ようと云うなら、妾にも料見があるから……。