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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens

Aozora Bunko

ねえ、あんた……。あたしはあんたの名を知らないから、まあアンちゃんにして置くわ。ねえ、アンちゃん、そうでしょう。君以て如何となす。あはははははは。

重兵衛 (苦々しそうに。)どうも騒々しいな。好い加減に喋って置け。一杯や二杯の酒で調子の狂うお前じゃあねえが、今夜はよっぽど下地があるな。

おつや おじさんの千里眼は偉い。実は熱海の駅で汽車を待っているあいだに、休み茶屋へ飛び込んで、ビール一本と何だかの罎詰一本、まさかに喇叭は遣らないけれども、息もつかずにぐっと聞こし召して、その勢いで猛烈に、かかる山路へ突貫して来たのよ。そのくらいのアルコールは途中で醒めてしまった筈だが、この狭いところへ這入って、焚火にかッかとあぶられたら、又その酔が一度に発して来て、いよいよ朗かになって来たのよ。なんだか知らないが、今夜はトテモ愉快で嬉しくってならない。さあ、アンちゃん。もう一つお酌をして下さいよ。

(旅人は無言で酌をすれば、おつやは続けて飲む。)

重兵衛 まあ、お客さん。失礼は勘弁して遣ってください。こいつは自分でもいう通り、がら金のがらッ八で……。それだから行く先々で主人と喧嘩の絶え間がないのですよ。