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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
もそっと、くっつくか」
源公は、富士春の方へ、身体を寄せた。白粉と、舞台油の匂が、微かに、源公の血の中へ流れ込んだ。
「色が黒いって、福の神は、大黒天って、こら、三助。色の白い福の神があるか? 師匠のような別嬪は、玄人って云わあ。未だあるぞ、九郎判官義経って、源頼光さんの弟だ」
「大伴の黒主ってねえ、源さん」
「師匠っ、上出来っ。天下を睨む、大伴の」
「九郎助」
「稲荷大明神」
「こんこんちきな、こんちきな」
「置きあがれ、馬鹿野郎――おやおや、喋ってる間に、定公め、一人で、煎餅を食っちまゃあがった」
「手前の洒落より、煎餅の方がうめえ」
格子の開く音がして
「頼もう」
若い侍の声であった。それに応じて、富士春が
「はい」
と、店の間をすかして見た。若い衆が
「暫く、士連中の弟子入りが無かったが――」
と、呟きつつ、御神燈の下を眺めた。
「おやっ」
富士春は、裾を押えて立上った。二三人が、押えている裾のところをちらっと見た。倹約令が出て、いくらか衰えたが、前幅を狭く仕立てて、歩くと、居くずれると、膝から内らまで見えるのが、こうした女の風俗であった。そして、富士春は、今でも、内股まで、化粧をしている女であった。