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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「少し手が――憚りさま」
ぐっと、小太郎の背中へ、身体を押しつけて、届かぬ手を、延していた。小太郎は、周章てて、身体を引きながら、素早く、横にある蒲団をとった。
「えへん、えへん、えへん」
一人の若いのが
「きゅっ――きゅっ」
と、大きい声を出した。源公が、出し抜けに
「浪人って、いいものだのう」
「芝居で見ても、小意気なもんだ」
「然し、扶持離れになると――」
小太郎が、じっと、その方を見た。自分へ当てつけているような感じがして、腹が立ってきた。
「源さん、憚りさま、お湯を一つ」
「へいへい、一つと仰しゃらず、二つお揃いで、持参致します。憚りさまやら、茶ばかりさん」
源公が、湯呑を二つ両手にもって、店の間へ出た。そして
「へへへへ、何うぞ」
小太郎は、何っかで見た顔だと思った。そして、考えると、すぐ、いつか、掏摸の手首を折った時、正面に、鋸を持って、喚いていた男だと思った。
(浪人、扶拝離れ)
と、いう言葉は、十分に意味がある、小藤次から聞いたのであろう――と思うと、怒りで、頭が濁って来た。張りつめて来た。途端、荒い足音が、近づいて、手荒く格子が開いた。
「おやっ」