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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「仙波の家内ではないか」

又蔵は、不安そうな顔をして、馬上の人を見上げた。

一人が、馬から降りて、左手で編笠の紐を解きつつ

「仙波殿の御内室では、ござりませぬか。久し振りにて、お眼にかかりまする」

「おお、池上」

国許で、小太郎の友達として、出入していた池上であった。

「どちらへ?」

「貴下は?」

「江戸へ」

「妾は、国許へ」

「亭主、ちょっと、奥を借りるぞ」

池上は、こういって、未だ馬上にいる兵頭へ

「降りて来いよ」

と、声をかけた。そして、奥へ入ろうとすると、赭っ茶けた襖の前に、花が咲いたような綱手が坐っていた。

「これは――御無礼致した。亭主、客人がいるでないか」

七瀬が

「いいえ、お見忘れでござりますか、あの綱手」

綱手が、御辞儀した。

「ああっ、綱さんか、わしは――」

池上は、少し赤くなった。そして、小声で七瀬に

「寛之助様の、御死去の折、たしか、お守役と聞きましたが――それに就いて、ちと、聞いたことがあって」

池上は、打裂羽織の裾を拡げて、腰かけた。兵頭が、土間の奥の腰掛へ、大股にかけて

「初めまして、兵頭武助と申します」

と、挨拶した。七瀬は、二人の丁度間へ坐って