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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「怖いっ」
と、泣いて、飛び起きたり――それは、前の二人の時にも医者が
「御弱い上に、熱が高いと、恐い夢をよく見ます」
と、いったが、斉彬の近侍の二三は
「然し――」
と、いって、うつむいて、何か考えていた。七瀬は、その人々の言葉を思い出して
「調伏?――」
と、ちらっと、考えた時、ぴーんと、木の裂ける音が、七瀬の心臓を、どきんとさせた。
七瀬は、裁許掛見習、仙波八郎太の妻であった。そして斉彬の正室、英姫の侍女でもあった。誠実で、聡明で、沈着であったから、寛之助の病が、悪化してくると共に、その看護を仰せつけられたのであった。
「何うも、可怪しい、何か、悪い企みがあるのではないか」
と、いう疑いが、まず、お目付兼物頭、名越左源太から起された。澄姫が、亡くなった時にも、熱がつづいて、医者は、首を振るだけで
「さあ――」
と、臆病そうな目を上げるだけであったが、今度も、病状が判らなかった。澄姫は、死ぬ少し前から、小さい、痩せた手を、出し抜けに、蒲団の中から出して、誰かに、縋りを求めながら
「怖いっ、怖いっ」
と、絶叫した。身体が、がたがた顫えて、瞳孔が大きく据ってしまって、いじらしい程、恐怖の怯えを眼にたたえながら、侍女へ抱きついて、顔を、その懐へ差込んだ。