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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

眼は、恐怖に輝きながら、廻転している霧を、睨みつけていると、霧が気味悪い、青紫色にぎらぎらと光るようにも見えたし、光ったのは眼の迷いであるような――そして、自分の眼が、何うかしていると、じっと、眺めると、その霧の中に凄い眼が、それは、人間の眼であったが、悪魔の光を放っている眼であった。

「あっ」

と、叫んだが、声が出なかった。

(これが、寛之助様に――)

と、思ったが、手も、足も、身体も、動かなかった。急に、青紫色の光が、急速度で、廻転すると共に、その光る眼の周囲に、人の顔らしいものが現れたように感じた。痩せた、鋭い顔であった。

七瀬は、動かぬ手を、全身の力で動かそうとしながら、一念を凝めて

(こいつを、退散させたら――)

と、全精神力を込めて、睨みつけた瞬間、寛之助が

「ああっ」

と、叫んで、両手を、蒲団から突き出すと、顫えたまま、左右へ振って

「こわいっ――」

七瀬が、その声に、寛之助を眺めて、はっと胸を押されると、部屋は、前のように明るく、その灯の下で、寛之助が、汗をにじませて、恐怖に眼をいっぱいに開いているだけであった。

「和子様っ」

と、上から、抱くと、寛之助は、身体を、がたがた顫わせて、しっかりと抱きついた。