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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「お一人かな」

「いいえ、娘と、同行でございます」

「八郎太殿は」

「夫は、何か、名越様と、至急の打合せ致すことが起ったと、途中から江戸へ引返しまして、もう、追いつく時分でござりますが、何う致しましたやら」

「ははあ」

「丁度、幸の川止めで、明日一日降り続きましょうなら、この宿で落合えるかと存じております。貴下様は、御国許へでも?」

「うむ、国許へ参るが――小太郎殿も、父上と御同行か」

「はい」

「今日の昼間、ここで、果合があったとのこと、お聞きかの」

「何か、大勢で――」

「いや、一風呂浴びて――何れ、後刻、ゆっくり――妙なところで、逢いましたのう」

侍は、振返って、そういいながら、微笑して、階段を降りて行った。

七瀬と、綱手とは、人々から聞く、二人連の侍とは、確かに、池上と兵頭にちがいなかったし、その二人を援けたのは、きっと、益満であると考えた。そして、池上らと、益満とが、この辺にいるとすれば、八郎太父子も、この辺にちがいないと、考えられた。そして、そう考えてくると、夕方近くから降り出した雨が、自分等二人の涙のように思えた。雨さえ降らなかったなら、明日か、明後日は、八郎太に追っつけるのに――箱根で遅れ、ここで遅れ、天も、神も、仏も、何処までも、仙波の家だけは、助けてくれないもののように思えた。