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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
お由羅が、壇の前へ跪いて、暫く合掌してから、立上ると、その男が、黒い衣を、背後から着せた。お由羅は、壇上へ上って、蹲踞座と呼ばれている坐り方――左の大指を、右足の大指の上へ重ねる坐り方をして、炉の中へ、乳木と、段木とを、積み重ねた。そして、左手に金剛杵を持ち、首へ珠数をかけてから、炉の中の灰を、右手の指で、額へ塗りつけた。
侍は、付木から、護摩木へ、火を移すと、お由羅は、白芥子と塩とを混じたものを、その上へふりかけた。小さく、はぜる音がした。火花がとんで、すぐ燃え上った。
侍は、一礼して退くと、索縄と、刀とをもって、お由羅の坐っている壇の下、後方へ、同じように指を重ねて坐った。そして、低い声で
「東方阿如来、金剛忿怒尊、赤身大力明王、穢迹忿怒明王、月輪中に、結跏趺坐して、円光魏々、悪神を摧滅す。願わくば、閻羅火、謨賀那火、邪悪心、邪悪人を燃尽して、円明の智火を、虚空界に充満せしめ給え」
と、祈り出した。
寛之助の病平癒の祈祷をするといって、この護摩壇を設けたのであったが、三角の鈞召火炉は、調伏の護摩壇であった。今、祈った仏は、呪詛の仏であった。
壇上の品々――人髪、人骨、人血、蛇皮、肝、鼠の毛、猪の糞、牛の頭、牛の血、丁香、白檀、蘇合香、毒薬などというものは、人を呪い殺すために、火に投じる生犠の形であっ