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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
見下ろすと、小太郎が、防ぎつつ、逆襲しつつ、走りつつ――もう、刀の法も、業も、何もなかった。お互に、ただ刀を振り廻して、何事かを叫んでいるだけであった。草原の急な傾斜は、人々の足を、時々奪ったので、小太郎も膝をついたり、浪人も転がったりしつつ、闘っていた。
「仙波っ――あれが、見えるか。小太郎が見えるか」
牧が、下の方を指さした。八郎太は、最後の息のような、大きいのを、肩でして、両手で、何かを探すように、前の方へ延して、空を掴んだ。そして
「小太郎」
と、微かに呟いた。
「見えるか」
八郎太は、瞳の力を集めて、牧の指さす下の方を、じっと、暫く見ていたが――いきなり、右手を右の方へ振って
「右へ」
と、叫んだ。そして一脚踏み出そうとしてよろめいた。そして、それでもう残りの力も尽きたらしく眼を閉じた。牧が、八郎太の顔を見てから、小太郎の方を見た。小太郎は、左へ、左へ避けていたが、そこの行手は谷で行詰まりであった。右手は、草原が、杉木立の中へつづいていた。
「右手へ、逃げい。小太郎っ、右手へ逃げい。左手は、谷じゃっ。谷があるぞっ」
と、牧が叫んだ。山内が、下の方で、上を振向いた。