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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

富士春は、これだけ、静かに云うと

「口惜しいっ」

と、叫んで、庄吉の左手へ、齧りついた。

「手荒いことをしちゃいけねえ」

と、南玉が、立上った。

「痛えっ、畜生っ」

庄吉は、手を振り切って、女の肩を蹴った。

「蹴ったな、おのれ――ようも、人を、足にかけたな」

南玉は、行燈の灯を吹き消した。そして、大声に

「ぽんと蹴りゃ、にゃんと泣く」

と、部屋いっぱいの声で叫んで、二人に、近づいて

「人気に障る、師匠、長屋の餓鬼共に見つかったら、うるさい」

と、小声でいった。そして、庄吉の袖を引張って、耳許で

「あっちへ」

庄吉も、富士春も、真暗な中での喧嘩は張合が無かった。

「とんだ迷惑で」

庄吉は、こう南玉に云って、奥の方へ足さぐりに行った。

南玉は戸口へ出て

「ええ、おやかましゅう、只今のは、南玉、講釈の稽古」

近所へそんな声をかけておいて、戸を閉めてしまった。富士春は、上り口の間へ立ったまま、剥げた壁へ顔を当てて、泣いていた。

「深雪は、師匠、とっくに、御奉公に上っちまったんだよ。見当ちがいの焼餅だわな。庄公は、少し人並とちがってるんだから――堪忍しておやりよ。さ、泣かずに、こっちいお出でよ――よう、師匠」