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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「何を、ぼんやりと、この新参っ子は――」
と、背後で、老女中の声がした。
「はいっ、御用は――」
と、深雪は、膝を向けて、手をついた。
夕餐を終って、お膳を勝手元へ出していると、一人の雑用婦が
「一寸、こちらへ」
と、納戸の方へ導いた。深雪が、おずおずとついて行くと
「お越しなされました」
と、襖を開けて、深雪を押込むようにした。深雪が、一足入ると、すぐ小藤次の顔が、近々と笑っていて、手を握られた。深雪は、左手で、襖をもって、力任せに後方へ引こうとしたが、小藤次の力に負けた。
「閉めて――早く」
小藤次は、立ったままで笑っている雑用婦を、叱りつけた。
「約束でないか、深雪」
「いいえ、いいえ――」
深雪は、右手を握られて、左肩を抱きすくめられて、小藤次の胸のところで、髪を乱すまい、顔を、肌を触れまいと、身体を反らしていた。
小藤次は、今朝結立ての御守殿髷の舞台香の匂、京白粉の媚いて匂う襟頸、薄紅に染まった耳朶に、血を熱くしながら、深雪を抱きしめようとした。
「なりません」
深雪は、脣を曲げて、眉をひそめて、小藤次の胸を左手で押した。
「声を立てると、見つかるぜ。