Japanese reading practice

Read classic Japanese books with furigana

ja-reading.com

Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.

なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

ふっと、寛之助のことを思い出しても、自分の子の病、死などは、窓外をかすめる風音ぐらいにしか感じなかった。

(医者が十分に手当をしてくれている。自分がいたとて、癒らぬものは癒らぬ)

と、呼びに来られると、考えた。

(自分が行かないために、よし、寛之助が死んだとしても、この草案には代えられぬ。この草案のために、あの子が犠牲になったとしたら、こんな光栄な死はない)

と、いうような理窟まで考えた。だが、立上った。襖を開けると、近侍が、廊下に手をついて待っていた。

「もう、死んだか」

「いいえ、御重態のよしでござります」

斉彬は、愛児の見舞に急ぐよりも、早く見舞って早くここへ戻らんがために、大股に、早足に、廊下を急いだ。

「お渡り――」

と、いっている声が聞えた。侍女だの、医者だのが、出迎えに来た。

病室へ入ると、誰の顔にも、不安さと、涙とがあった。英姫の眼は、泣きはれて、蕾のようになっていたし、七瀬の髪は乱れて、眼が血走っていた。斉彬は、寛之助の枕頭へ坐って、じっと、病児の顔を眺めた。

寛之助は、眼に見えぬ敵と、何んなに戦ったのだろう? 三日見ない間に、頬の艶がなくなって、痩せてしまっていた。