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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

然し、八郎太殿の血を受けていながら、兄妹として、そうまでもちがうものか――のう、綱手殿。武士としては、単身、敵地へ間者に入る程の女を女房にしたいものじゃ。当節は、士も、旗本の如く、悉く遊芸に凝れば、婦女子も、芸妓を見習って、上下、赴くところは、惰弱の道のみ、それと、これと、雲泥の差ではござらぬか。お身も、小太郎の妹なら、何故、及ばぬまでも、牧の行方を求めて、小太刀の一本も恨まれぬぞ――いや、こういうことを、近頃は、野暮と申す。夜も、更けた。臥みなされ」

月丸は、こういって、立上った。そして、廊下へ出て

「快い夜じゃ」

呟いて、厠の方へ行った。

綱手は、口惜しかった。好きな月丸であっただけに、罵られるのが、辛かった。だが、同時に

(女丈夫――命にかけて――妻にしたい)

と、いう言葉が嬉しかった。

(もし、百城様が、妾の本心を知ったなら)

と、思うと、もう、百城は、自分のもののように思えた。

(いつか、判る時があろう)

と、心の中で、微笑したが

(判る時までに――もし、外に、好きな女子が出来たなら)

と、思うと、心臓が早くなった。

(打明けたら?――あれだけの決心をしていなさるからには――然し、母も、父も、余人には知られるな、知らすな、と固く仰せられたのだから――でも、対手によって――百城様なら、お母様も称めていなさる