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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

だが、なかなか、消えなかった。

「某が――」

月丸が、半身を出して、手を延した。二つの手が、火影のところで、ぶっつかろうとした。綱手は、周章てて、手を引込めた。月丸は、肩を、胸を、少し現しながら

「なかなか、消えぬ」

と、呟いて、烈しく、手を振った。火が消えた。

「有難うござりました」

軽く、油煙の臭気のする中で、そういって、綱手が、帯の解けたのを、引上げると、月丸が押えているらしく、動かなかった。だが、すぐ

「これは、御無礼」

と、手を放したらしく、帯が自由になった。腰紐を解き、着物を脱いで、床の上に坐った時

「綱手殿――何うも、本心が」

「本心が?」

「判りかねる」

「その内に、お判りになりましょう」

「その内に?――その内に?」

月丸は、綱手の床の方へ向いているらしかった。

暫く、二人は、黙っていた。冷やかな闇と、深い山の沈黙とが、凄いまでに感じられた。綱手は、固い蒲団を、肩まで被て、襦袢の裾で両足をくるんだ。

「綱手殿」

月丸の声が、月丸の臥床の端――綱手の蒲団の近くでした。綱手は、両脚を固くして、胸を躍らせながら

「はい」

「本心が、判るとは――何ういう本心、又、それがいつ判るか――」