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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「何々、正気づけばよい。少し、血の道の気かの。はははは。嫁入すると癒る。心配致すな」

綱手は、立上った。

(死ぬ外はない)

と、思った。だが、すぐ

(一目、月丸様に、逢って――真偽を、ただして)

綱手は、袋持の後方から、廊下へ出ると共に

(月丸様を殺して、死ぬ――いいや、あの方は殺せぬ、自分一人で――いいや、それよりも、あの方が、よし、牧様の、お息子であっても、そうでないと、仰しゃって下さったなら――いやいや、牧様のお息子であっても、あの方の恋は、偽りの恋ではない)

綱手は、もがいた。真暗な中に、宙ぶらりになって、悶えていた。底には、醜悪な臭の火が燃えていた。

(あっ――)

綱手は、全身で、悲鳴を上げた。

(後悔するな――後悔するな、と、仰しゃった言葉――このことであろう――このことでないかしら、いつかは知れる身の上だと、思うて――そうにちがいない。後悔するな。後悔するな――)

綱手は、月丸の、その時の顔、言葉つきを思い出した。

「坐るがよい」

綱手は、袋持の声に、はっとして、頭を下げて、つつましく、坐った。

「綱手――お身は」

と、云って、袋持は、暫く、言葉を切った。