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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「では、お風呂へ」

「いや、相談事があるし、取急ぐから」

深雪が、井戸端へ、立って行った。小太郎は、じっと、その後姿を見送っていたが

「不憫な奴じゃ」

と、呟いた。

「然し、何んて、やさしい、利口な方だろう、若旦那。もう、三十若いと、厭とは云わさんが――庄吉、無理はない、人の懐をねらうだけあって、手前、眼が高えや」

「こん畜生、いやな称め方をする爺だ」

と、云った時、深雪が、水を汲んで、戻って来た。

建込んだ長屋の、薄暗い、狭い部屋――それは、夏に近い夕だけに、四人も坐っていると、むっとするくらいであった。

「深雪」

と、小太郎が、顔を挙げて、鋭く云った。

「はい」

と、深雪が、周章てて、眼を上げた。

「操を、棄ててくれぬか」

深雪は、小太郎の眼から、眼を外らして、低く

「ええ」

と、頷いた。庄吉が

「何か、思案が、つきましたかい」

「小藤次の口から、牧の在所を聞き出す外に、手段はない。のめのめこうして暮していて、暮しにつまって、朋輩へ、無心に行ったり、又、思いがけぬ災難に逢ったり、或いは屋敷の者の手で、牧を討たしたくはない」

小太郎は、低く、こう云ってから、強い調子で