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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
女郎の手管に、鈴ヶ森
オランダ、アメリカ
オロシャ船
流しの唄が、後方に、聞えていたが、庄吉には、気がつかなかった。
(あいつの、懐中物を――)
小太郎と、深雪とが、日数の定まらぬ旅へ立つ路銀に、物を売るのを見て、庄吉は、決心した。
(仕納めだ)
と、思った。
(いいや、手はじめだ。右手は、いつ、仕事仕舞いをしたか?――そうだ。若旦那の、印籠が、お仕舞いだったが、左手は、初めてだ。左手のかんで、何のくらいやれるものか?――仲間の奴も、見てやがるだろうが、庄吉、一世一代の仕事の仕始めの、仕納めだ。今までだって、俺は、悪事をしたことはねえが、今度の金も、お二人への金だ)
庄吉の蹤けて行く人は、町家の旦那らしく、結城紬に、雪駄の後金を鳴らして、急いでいた。往来の人々は、誰も彼も不安そうに、急ぎ、口早に話し合っていた。家の中で、荷造りしているところが、所々にあった。
庄吉は、右の軒下を、足早に――だが、目立たぬように急いで、その男を追い抜いてしまった。そして、小半町も先へ行って、くるっと振向いて、その男の正面から、俯向きつつ歩いて来た。
久しくしなかった仕事に、心が顫えた。