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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

一世一代此の世の名残り、桃牛舎南玉、長講二席相勤候

と、天地紅の、びらが、貼ってあった。中へ入ると、汚い敷物の上に、七八人の客が坐っていた。

「大分、騒いでおりますな」

と、木枕をいじりながら、隠居らしい人が、隣りの男へ、声をかけた。

「本当にねえ、芝を逃げ出すくらいなら、芝で生れねえのがいいや」

軒下で、怒鳴っている寄席の若い衆が

「いらっしゃいっ」

と、声をかけると、暖簾を、頭で分けて、一人が

「おうおう、集まって来てやがるぜ、おけら共が――」

「よう、禿亀、相変らず、のんびりしているな」

「うむ、今夜は、南玉と二人っきりだろうと思ったら――」

と、云った時、又

「いらっしゃい」

と、呼ぶ声がした。

「来るぜ。胆の据ったのが、うようよといるらしいのう」

「何をっ。手前のは、胆が、からっきし無えから、怖くねえんだろう。お前んとこの長屋の奴は、青梅に逃げたってね」

「うむ、えらく、腹がへった」

一人は、そういって、帳場を振向いて

「売子の娘は居ねえのう」

「危えからって、青梅へ行ったのだろう」

「今朝っからの騒ぎで、お前、商売は出来ねえし、こんな時だ、一つ、品川の女郎屋へ行ってやれ。