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なんごくたいへいき

南国太平記

直木 三十五

Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens

Aozora Bunko

「うるせえな、師匠」

「師匠が二つに分れると、既ち二升、冠婚葬祭、総て、酒は二升ときまっている。物の道理は、恐ろしい」

「わしの娘が、江戸へ嫁づいておりますので、そいつが心配で、心配で」

「ああ、あの娘は、お前さんのか」

「御存じで?」

「江戸の娘なら、大抵、知っている」

「いいえ、嫁で」

「嫁なら、猶詳しい」

「お父っあん、こいつあ、狂人だから、相手にしなさんな。江戸は、心配することはないよ、黒船が来たって、交易のためで、何も、人を取って食おうの、何んのって、そんな――」

と、いった時、入口から

「庄兄い」

と、いう声がした。

「誰でえ」

「俺だ。仁吉だ。軒下の笠を、見かけたんで、飛んで来たが――」

「判ったか?」

「うむ、牧って人あ、大阪へ行っての、お国許から、戻りの、御殿様に逢ったってまでは判ったが、それから先が、判らねえってことだよ」

庄吉は、湯槽から出た。

「若旦那」

庄吉は、浴衣の前を押えたまま、入って来て

「今、仲間の若い奴が」

と、云いかけると、小太郎が

「仁吉か」

「お聞きになりましたか」

「いいや、すぐ、お前のところへ行ったが」

深雪が、じっと、庄吉の顔を、眺めていた。