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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「馬鹿っ。何故、お上を警固せん。わしに係り合って、何になるかっ」
と、怒鳴った。そして、逃げて行く舟を見ながら
「これしきのことに、騒ぐな。みっともない」
手で、傷を押えて、歩みかけると、医師が来て
「御手当を」
と、云った。将曹が、腕をまくると、二の腕のうしろから血が出ている。
「これは、掠れ弾で、ござります。別条のない――」
と、医師が云って、供の持っている函の中から、膏薬を出してきた。
有村の舟は、帆を上げて、艪を漕いで走っていた。二三艘の舟が、近づいたが、短銃に、威嚇されたらしく、追って行かなくなった。
橋づめから、一艘の舟へ、七八人の人々が、乗り込んで、漕ぎ出したが、船頭が一人らしく、有村の舟を、追えそうにもない、舟足の鈍さをしていた。
「お為派であろう」
と、平が、将曹に云った。
「さあ、何れにしても、まず、仕合せ」
と、将曹は、腕に繃帯をしながら
「駕脇を十分に固めて、先触れの人数を、もっとふやすがよい。江戸まで、油断ならんぞ」
と、人々に、注意した。
「何んと、まんまと、失敗ったの」
有村は、追って来る舟を、時々、振返りながら
「何うも、命を惜しんでする仕事は、いかんて」