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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
玄白斎は、それを見て
「間根ヶ平が、最後の修法場であろうが、今から、この疲れた脚で、行けようとも思えぬ。この上は、牧が、国外に出てまで、修法するか、それとも、御城下へ戻るか――間根での修法が、明日の四つ刻にすむとすれば、久七峠へ出て、牧が通るか、通らぬかを待とう。もし、通らぬ時は、城下へ戻ったもの、通るとしたなら、話によっては、そのままには差し置かぬ」
と、いった。和田仁十郎、高木市助の二人は、老師の、たどたどしい脚を、左右から支えながら、夜を徹して、栗野から、大口へ、大口から、淋しい街道を久七峠へ登って来たのであった。
久七峠には、島津の小さい番所が置いてあった。その番所から、少し降ったところに、この茶店があった。
「牧殿の返答によっては――」
仁十郎は、こういって
(斬っても、よろしいか)
と、つづけたいのを止めた。玄白斎は、牧を追跡し、口でも、よくはいっていないが、秘蔵弟子として、師よりも優れた兵道家として、子の無い老人にとっては、子よりも可愛い仲太郎であった。仁十郎には、よくそれが判っていた。
「そう――返答によっては――捨て置けんかも知れぬ」
玄白斎は、仮令、斉興の命なりとも、臣として、幼君を呪う罪は、兵道家として許しておけぬと、頑強に考えてはいたが、そのために自分の手で、牧を殺す、という気にはなれなかっ