Read classic Japanese books with furigana
ja-reading.com
Read classic Japanese books online with furigana. Filter by JLPT level, tap a word for the meaning, and translate a sentence.
なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
「牧殿」
と、云って、差出した。
「うむ」
牧は、頷いただけで、義観の立去って行く後姿を見ようともせずに、じっと、腰をかけたままであった。四人は、暫く、黙っていた。義観の後姿は、杉木立の中へ、草の中へ、現れたり、隠れたりしつつ、小さくなって行っていた。一人が
「あの坊主は、当山でえらいのか?」
と、亭主の顔と、若い僧の顔とを見較べて聞いた。
「はい――なあ、良順さん、お山じゃ一番だろうの」
「うむ」
と、僧が、頷いた。そして
「又、明日」
と、亭主に、挨拶して立上った。
「先生、寺務所へ掛合って、今一応、交渉を致してみましょう」
「要らぬ」
牧は、首を振った。
(ここ一年の内に、一切の物が移ってしまった――わしの兵道が、よしその効験を現そうとも――眼前に、それを顕現しても、最早、人々は、信じないかも知れぬ。わしが命を捨てての修法も、ただ人に侮りを受けるだけのものになるかも知れぬ。兵道で尚ぶところの、以心伝心などということに、誰も興味を持たなくなった。神人相通の術などと云っても、判らなくなった。時勢であろう? 斉彬公の究理している電気術の如き、その理論を口にし、文にして、如何なる凡夫と雖も、これに通じ得、学習することができるらしいが、わしらは、それを一子相伝、家門不出の秘伝として伝えてきた。