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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
富士春は、懐手をして、突立ったままで
「お前さん、ちょいと、お前さん」
「わしか?」
と、日下部が、見上げると
「お前さん、誰だえ?」
日下部は、一寸、見上げたまま、それに答えないで
「国許の万事は、岩下と、西郷と――」
「ちょいと――」
「何んじゃ」
「黙って入って来て、挨拶もしないで――勝手な真似をするがいいや。庄吉も、益満も、お前さん達も、何んだえ。それで、人間かえ。朝起きりゃ、お早う、晩になりゃ、お眠みくらいの挨拶を知ってるなら、拙者、何処そこの某くらいのこたあ、云っちゃあ、何うだい。大概、人を馬鹿にするない。いい気になっていりゃ、庄公も、益休も、勝手な――妾ゃ、い、一体、何うなるんだい。お前方あ、薩摩のお屋敷へ入っていいだろうが、妾ゃ、一体、何う、なるんだい」
富士春は、口惜しさと、怒りとに、途切れ途切れの口を利きながら、泣くまいとしても、涙がこみ上げてきた。
(何処まで、誠をつくしたなら、男ってものは、自分のしているのと同じように、妾にしてくれるのだろう?)
と、思うと、世の中も、男も、自分も、めちゃめちゃに、引き裂きたいように感じてきた。
「益満は、じき戻る」