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なんごくたいへいき
南国太平記
直木 三十五
Read 南国太平記 (なんごくたいへいき) by 直木 三十五 (なおきさんじゅうご) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 493,291 characters · 991 screens
(乳母の税所敦子は――抱傅の吉井は)
左源太は、こういう確乎とした人物がついていて、何をしているのだ、と思うと共に、その人々の力に及ばぬ、不思議な死を遂げさす力を――何うしていいのか?――左源太は、人々の振向いて眺めるのも感じないで、脇差を押えると、奥へ走って行った。
沈んだ顔をして出迎えた士が
「御苦労に存じます」
と、挨拶をしても、左源太は、頭さえ下げなかった。廊下で坊主が、お叩頭をしても、それから、御病間へ入って、乳母の税所敦子が、血走る眼で、目礼をしても、左源太は、鋭く光る眼で、睨みつけたまま、哲丸の臥ている側へ、坐ると、じっと、眠入っている顔を眺めた。
枕頭には、二人の医者と、坊主と、敦子と、侍女が二人と、坐っていた。
「良伯」
こう医者を呼んだ左源太は
「も、もしものことがあれば、捨てておかんぞ」
と、いって、脇差へ手をかけた。良伯は、静かに
「覚悟致しております」
と、答えた。その声にも、眉にも、眼にも、決死の色が見えていた。
「税所殿、矢張り、おびえなさるか」
「はい、夜に入りますと、物の怪にでも、おそわれるように、急に、お泣き出しになり、お熱が高く――」