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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
豊麗で、媚を含んでいて、そのくせ上品にさえ見えるのは、顔の道具のよく整っているせいでしょう。
人の子が斯うまで恵まれた美しさを身につけられるものかと、銭形平次も一度は呆気に取られた程です。霞む眉、黒い――やや蒼味を持った眼、柔かい鼻筋、唇のカットの見事さ、まことに線の魔術という外はありません。
これほどの縹緻を持てば、その頃の道徳と通念では、歌舞の菩薩と思われた、遊女の群に入ったら、名ある太夫を蹴落して、一気に全吉原の人気をさらうことも出来るでしょう。何を好んで両国の見世物小屋に身を落し、何千何万の人に顔をさらすのかと一応ふしぎに思いましたが間もなくその疑いは解けました。
気の毒なことにお夢は生れながらに足が悪く、踊ることも駆けることも出来ない女だったのです。
「怪我はどうだ」
平次は側へ寄りました。
「有難うございます、お蔭様で――」
お夢は焼けた鬢などを掻き上げて居ります。火傷は額から首筋へほんの少々、膏薬でも済みますが、火鉢で腰のあたりを打たれたそうで、身動きは出来そうもありません。
「その災難のあった時のことを詳しく話して見るが宜い。二階から火鉢が独りで落ちる気遣いはない」