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ぜにがたへいじとりものひかえ
橋の上の女 ――銭形平次傑作選2
野村 胡堂
Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens
「さあ、大変、親分はどうしました」
「庭にいますよ、何うしたんです、八さん」
取次いでくれたのは、何時までも若い、恋女房のお静でした。
「親分、沢屋の主人は殺されましたよ、早く行って見て下さい」
庭へ飛び込んだのは、汗みどろになった八五郎でした。
「そいつは大変だ、手を洗ってすぐ行くからそこで話せ」
「それっ切りの事ですよ、今日はお琴が逆立ちで日本橋を渡るんだと言って、通り一丁目から門並み空家だ。日本橋の上は、押すな押すなの騒ぎ」
「お前見たいなあわて者は、どこへ行っても多勢あることだな」
「十七になる出来たての粉のような娘が、逆立ちをしようと言うんだから、こいつは江戸開府以来の見物でしょう」
「呆れた野次馬だ」
「正午の刻の少し前から、橋の上は人通り止めで、江戸橋へかけていっぱいの舟だ、落ちこぼれの娘さんを拾おうと言うのだから、舟手の人足もあだやおろそかではない」
「芸子が舟べりに逆立ちをするのを、物好きな衆は見物するわけだ」
「時刻はよしと、沢屋の娘のお琴が、日本橋の欄干の南詰へ登りました。不断着だけれど黄八丈に赤い帯、小裾を両股に挟んで、さり気なく立った姿は、日本橋小町と言われた、眼の大きい、公卿眉、鼻の下の寸の詰った、滴るような江戸前の娘だ、私は思わずやんやと囃しましたよ」