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ぜにがたへいじとりものひかえ

橋の上の女 ――銭形平次傑作選2

野村 胡堂

Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens

Aozora Bunko

「ほんの瞬く間の油断であった。大里氏は前の方にばかり気を取られ、拙者はまた編笠を持って前へ廻ったので、殿の後ろは自然空っぽになった」

大里貫之助と佐々見左仲は、斯う念入りに説明して行くのです。

「その時、他に見て居る者はございませんでしたか」

平次は問いを挟みます。

「編笠茶屋の評判者、――お妻とか申したな――あの美しい娘が、横の方からそれを見て居たと思う。外には人通りも杜絶え、生憎月もなかった」

「で?」

「何やらヒラリと闇の中に動いたと思うと、殿の御髻は切られて居た。相手の正体はもとより判らず、神変不可思議の早業で、気の付いた時はもう、曲者の影も形もなかった」

「申すまでもございませんが、其辺をよく御覧になった事でしょうな」

「見た、――闇の中とは申しても、二間や三間先の物はかすかに見える。編笠茶屋の灯は心細いものであったが、其辺を照して居るのだ。併し後にも先にも曲者の姿は見えず、今切られたばかりの殿の髷も見えない」

「?」

「殿には、そのまま御帰館になったが、以ての外の御立腹だ。天下の往来で、武士の髻を切るとは憎みても余りある曲者だ。草を分けても捜し出して、屹度成敗するようにと、お供の二人に厳命だ」