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ぜにがたへいじとりものひかえ

橋の上の女 ――銭形平次傑作選2

野村 胡堂

Read 橋の上の女 ――銭形平次傑作選2 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 88,573 characters · 178 screens

Aozora Bunko

「で」

「死骸になった菊次郎さんが、水除けに引っ掛ったとき、首筋を撲ったくらいのことで、黒血が溜る筈もございません。打たれて黒くなるのは、生きている人に限ったことと成っておりますが――」

さすがは武家の娘で、この十九の娘の、眼の届くには驚きました。首筋と言うのは多分、頸部の大動脈でしょう。

「それだけで?」

「まだございます、――菊次郎様は、五百両の大金を持出したことは判っておりますが、舟にも、橋場近い川底にも、両国近くにも、菊次郎様の懐中にもなかったそうでございます」

「フーム」

「それだけの大金を持っていらっしゃれば、船は沈んでも、御自分は溺れても、お金の始末はしたことと存じますが」

「その金は、どうした金で」

「昼のうちに、奥蔵から出して、翌日は朝のうちに、人様に払うお金だったそうでございます」

「若旦那が持出したのは?」

「さア、そこまではわかり兼ねますが」

お夏はそれだけは言い兼ねた様子です。おそらく若旦那の菊次郎が、向島とやらにいる女に貢ぐために持出したものかもわかりません。

「で、お嬢さんのお望みは、私に何をさせようと仰しゃるので」

「菊次郎さんは人手にかかって、害められたものに違いもございません。