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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(七)平次女難
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens
刻々高まって行く異常な昂奮を抑えて、窓から暁の光の忍び込むのを見た時は、全く腹の底から救われるような心持になりました。
「やれ有難い」
番人夫婦は、明らさまにそう言って、掌で額を叩いたりなどしました。
雨戸を開けると、一パイに春の陽が、歓喜と希望とを惜し気もなく家中に漲らせます。
が、その時不意に、
「あッ、お嬢様がッ」
隣室から女中の声。
唐紙を押し倒すように飛込んで行くと、お糸の床は藻抜けの殻で、その側に女中のお千代が、あまりの事に尻餅をついたなり、ろくに口もきけません。
平次は飛付くように、床の中へ手を入れました。中はまだ人肌の温みが残って、誘拐されたにしても、そんなに遠くへ行ったとも覚えません。
「家から誰も出すな。持場持場を固めて、手に余る奴が飛出したら呼子を吹けッ」
平次は縁端に立って、凜々と朝の空気の中に響かせます。
それからまる半日、寮の中は煮えくり返るような騒ぎでした。畳をあげ、戸障子を外し、天井裏まで入り込んで、鼠一匹見逃さないように探しましたが、曲者の姿はおろか、暗がりに隠したらピカピカ光るだろうと思うような、美しいお糸の姿も見えません。