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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(七)平次女難
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(七)平次女難 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 152,696 characters · 310 screens
そのお菊が大名屋敷に奉公すると聞いて、指を啣えて引っ込む手前じゃあるめえ」
「親分」
「うるせえ野郎だ。安、縛ってしまえ。顎を叩きたきゃ、お白洲で存分にやるがいい」
「大丈夫ですか、親分」
子分の安が躊躇するのを、三つ股の源吉は叱り飛ばすように縄を掛けてしまいました。
「親分さん、娘を殺したのは、その男に間違いありません。どうぞ、敵を討って下さい、お願い申します」
お楽は娘の死骸を抱いたまま、降り繁くなる涙の顔を挙げました。
「おっ母さん、お菊さんを家へ運んで行きましょうよ」
野次馬と源吉の目に射辣められていたお吉は、この時ようやく声を掛けました。
「おや? まだそこに居たのかい、お前は」
「え」
「お菊がこんな姿になって、――お前は、まさか嬉しいんじゃあるまいね」
「まア、おっ母さん」
お吉はあわてました。継母の舌の動きが、あまりにも辛辣だったのです。
「手伝っておくれ、――噛みついちゃ悪いから、お前は足の方を持つがいい」
「…………」
黙って死骸の足を持上げるお吉、わけもない涙が、この時ドッとこみ上げます。
「でも、やっぱり泣いてくれるんだね」
自分の言った皮肉のためとは、顛倒したお楽には気がつかなかったのでしょう。