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ぜにがたへいじとりものひかえ

銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入

野村 胡堂

Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens

Aozora Bunko

四角な字を読むのが好きで、詩とか五とかを作って、逍遥軒と名乗ったそうで――」

「逍遥軒荘左衛門か。――なるほど」

笹野新三郎は首を傾けました。

「日比魚は比目魚か何かで?」

「大違いだ。――その日比魚というのは、どうかしたら、魚扁に日比と書いた字を崩したのではあるまいかな。――魚扁に日比なら鯤という字だ」

「ヘエ――そんな字がありますんで?」

「あるよ。上州屋が逍遥軒荘左衛門と名乗るから気が付くんだ。あの鯤という言葉は、支那の『荘子』という本の一番始め、逍遥遊篇第一というところに出ている。その文句は〈北冥に魚あり、その名を鯤となす。鯤の大きさその幾千里なるかを知らず〉と――ある」

「つまらねえものを引合いに出したもので――」

平次は口惜しそうでした。

「その後がまた面白い」

「ヘエー、もう少し読んで下さいませんか」

「つまり、その鯤という鯨のような魚が、鳥になって今度は鵬というものになり、南冥というところに飛んで行く、――〈南冥とは天池なり〉と断ってある、つまり天の池だな」

「すると鯤の住んでいる北冥というのは何でしょう」

「北の海だ、〈冥は溟なり〉とある。――その北の海に鯤という魚がいるのだ」