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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens
堀周吉は一座を見渡して、こう達弁につづけました。
「ついては、御親類様方御一統の思召しを承り、御異存がなければ明日にも公儀に届出の上、改めて世間へも披露いたしたいと存じます。それから、林太郎様御許嫁石崎平馬様御息女お礼様は、せっかく当家に御縁のあったことでもあり、そのまま当家にお迎え申上げ、御跡取り助十郎様と祝言いたさせたいと存じます。皆様御異存がございませんか、――御言葉がなければ御同意下されたことといたし、右様に取極めて、別席にて一献差上げたいと存じます」
堀周吉は言い納めて一座を見渡します。誰も異論を称える者もなく、――わずかに病人の主人、庄司右京の眼に、激しい忿怒らしいものが走りましたが、やがてそれも悲しい諦めとなって、人々の笑いさざめく声に紛れてしまいます。
「それでは、公儀御届のため、皆様の御判を頂戴いたします」
堀周吉が何やら書面を上座の方から廻し始めました。
「待った」
不意に弱々しいが凜とした声、――一座はしんとなりました。
「その御判、お待ち下され。庄司林太郎、それに参って申し開き仕る」
「…………」
あッと顔見合せる一座の中へ、月代も髯も伸び放題ながら清らかな紋服に着換えた林太郎は、細々とした自分の影を踏んで、――冥途を行く亡者のように静かに進み出たのです。