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ぜにがたへいじとりものひかえ
銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入
野村 胡堂
Read 銭形平次捕物控(十二)狐の嫁入 (ぜにがたへいじとりものひかえ) by 野村 胡堂 (のむらこどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 139,230 characters · 280 screens
蒼い顔をして迎えたのは、きのう平次の家へ訪ねて来た手代の幸吉でした。
「自害?――俺は殺されたと聴いたが」
平次は何かもう大きな行き違いのあることに気が付いたのです。
「刃物は見付かりました。箪笥の間から」
「そうか」
強いて追及もせずに、平次は宏大な構えの中に入ります。
「銭形の親分さん、御苦労様でございます」
三十四五の色の白い立派な男、調子もひどく慇懃です。
「お前さんは」
「番頭の文六でございます」
三番番頭の文六、中年者と幸吉が言ったのはこの男のことでしょう。人柄は立派ですが、なるほど商売の方は幸吉任せかも知れません。
「案内してくれ。主人の部屋だ」
「ヘエ――、どうぞこちらへ――」
店から入って廊下を奥へ、思ったよりも大きな構えです。中庭を左手に眺めて縁側の行止まりが主人の部屋らしく、その手前の部屋から出て来た、目のさめるような美しい娘は小腰を屈めて二人をやり過しました。
「あれは――?」
「娘の幾代――評判ものですよ」
ガラッ八は囁きます。
突き当りの唐紙を開けると、中は八畳の部屋で、血潮の中に主人徳次郎は倒れているのでした。床はまだ敷かなかった様子、座蒲団の上へ俯向きになった恰好で、傷は前から二箇所。