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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
何うか一刻も早く町へ出て貰いたいものだ。若し彼奴が不親切な奴で、金を貰いながら其儘どこへか行って了ったら何うだろう。いや、真逆にそんな事もあるまい。」
甲から乙へと考えながら、市郎は硬い岩を枕に暫く寝転んでいた。
「もう何時だろう。」
懐中時計を取出して視ると、先刻からの騒ぎで何時何うしたか知らぬが、硝子の蓋は毀れて針は折れていた。日光の視えぬ穴の底では、今が昼か夜か、それすらも殆ど見当が付かぬ。
待つ身の辛さは今に始めぬことであるが、取分けて今此の場合、市郎は待つ身の辛さと侘しさとを染々感じた。彼は何とは無しに起き上って、蝋燭を照しつつ四辺を見廻すと、四方の壁は峭立の岩石であるが、所々に瘤のような突出の大岩があって、其岩の奥には更に暗い穴があるらしい。
「は此穴に棲んでいるんだろう。」と、市郎は首肯いた。先刻自分を傷けた※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)も、恐くあの穴へ逃げ込んだのであろう。一体、彼の※(「けものへん+操のつくり」、第4水準2-80-51)なるものが何匹居るのか知らぬが、若し大勢が其処や彼処の穴から現われて出て、自分一人を一度に襲って来たら到底敵わぬ。