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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
南向の小屋の前には、二三枚の莚が拡げて乾してあった。父子はここに腰を卸して、見るとも無しに瞰上げると、青い大空を遮る飛騨の山々も、昨日今日は落葉に痩せて尖って、宛ら巨大なる動物が肋骨を露わした様にも見えた。其骨の尖角の間から洩るる大空が、気味の悪いほどに澄切っているのは、軈て真黒な雪雲を運び出す先触と知られた。人馬の交通を遮るべき厳寒の時節も漸く迫り来るのである。
「今から丁度五十年前の事だから、俺も真実の話は能くも知らない。後に他から聞いたのだが……。」と、安行は我子を顧って、「矢はり今時分のことだ。お前の祖父さんが隣村まで用達に出かけて、日が暮れてから帰って来た。其晩は好い月夜で二三町先まで能く見える。祖父さんは少し酔っていたので、何か小唄を謳いながらぶらぶら来ると、路傍の樹の蔭から可怪な者がちょこちょこ出て来た。猿のような、小児のような者で、矢はり真直に立って歩いて行く。はて、不思議だと思いながら、抜足をして窃と尾けて行くと、不意に赤児の泣声が聞えた。熟視ると、其奴が赤児を抱えていたのだ。」
市郎は息を詰めて聴いていた。
「そこで、祖父さんも考えた。