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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
」と、お杉は鬼のような顔をして、常に夫を呪った。重蔵は愈よお杉に飽いた。飽いたと云うよりも寧ろ恐れたのであった。そんな状態で幾年かを無意味に送る間に、お杉は懐胎して重太郎を生んだが、産後の肥立が不良いので久しく床に就いた。其隙を窺って重蔵は逃げて了った。
今度は既う諦めたのか、但しは病中の為か、流石のお杉も執念深く追っては来なかったので、これを幸いに重蔵は又もや漂泊の旅路に上った。或時は土方となり、或時は坑夫となって、甲から乙へと際限もなく迷い歩く中に、二十年の月日は夢と過ぎた。彼の頭には白髪が殖えた。先頃までは加賀のあたりに徘徊していたが、近来飛騨に銀山が拓かれて、坑夫を募集しているという噂を聞込んだので、彼は同じ仲間の熊吉と云う老坑夫を誘って、殆ど三十年振で故郷の土を踏んだのである。
変遷の著るしからざる山間の古い駅ではあるが、昔に比ぶれば家も変った、人も変った、自分も老いた。誰に逢っても昔の身上を知られる気配もあるまいと多寡を括って、彼は平気で町中を歩いた。旧主人の角川家の前も通った。駅を抜けて村境まで出ると、日が暮れかかって来て、加之に寒い雨が降って来た。