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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens

Aozora Bunko

「あ、逃げた。」

人々は続いて追った。忠一も歯噛をして追った。重太郎は狐のように雪を飛んで、早くも門外まで逃げ去った。

けれども、飽まで不運なる彼は此で又もや強敵に逢った。巡回中の塚田巡査が恰もここへ来合せて、角燈の火を其の鼻の先へ突付けたのである。重太郎も之には少しく怯んだ。

背後からは忠一を先に、角川家の人々が追って来た。前には巡査が立っている。敵に前後を挟まれた重太郎は、先ず当面の邪魔を攘うに如ずと思ったのであろう、刃物を揮って巡査に突いて蒐った。巡査は体を替して其利腕を掴んだが、降積む雪に靴を滑らせて、二人は折重って倒れた。

忠一は駈け寄って其襟髪を取ろうとしたが、此の場合、身体の小さいと云うことが重太郎に取っては非常の利益であった。彼は早くも忠一の足の下を潜って這い抜けた。加之も二間ばかりは四つ這いになって走って、又ひらりと起ち上った。犬だか人だか判らぬ。

「賊だ、賊だ。」と、人々は口々に叫びながら追った。

この騒ぎを聞付けて、町の家々でも雨戸を明けた。「賊だ、賊だ。」と叫ぶ声が甲から乙へと伝えられた。重太郎は哀れや逃場を失った。それでも彼は猶一方の血路を求めて、唯ある人家の屋根へ攀登った。