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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
おつや (小声に力を籠めて。)でも、あの人はどうも可怪いわ。太ァちゃんが無暗にあの人を怖がるのは、なぜだろうと思っていたんだが、あたしも今、急に怖くなったわ。
重兵衛 なぜだ。
おつや (異常の恐怖に襲われたように。)あのランプが風で消えて……。家のなかが急に薄暗くなったでしょう。
重兵衛 むむ。
おつや その時にあたしは障子をあけて出ようとすると、焚火の前にいるあの人の影が……。トテモ凄いんで、ぞっとしたのよ。
重兵衛 影が……。(首をかしげる。)影が薄いというのか。
おつや 影が薄いんじゃない、凄いのよ。太ァちゃんの怖がるのも無理はない。あの人、確に唯の人じゃあないわ。
重兵衛 でも、まさかに化物じゃあるめえ。ここらで狐や狸が化けたという話は聞かねえからな。はははははは。
おつや 叱っ、叱っ。(制して。)なにしろ気味が悪いから、早く追い出して頂戴よ。
重兵衛 おまえも泊れと云ったじゃあねえか。
おつや (あわてて。)取消し、取消し……。そんな事はもう断然取消しょ。あんな人と一緒に泊るのは真平だわ。あたしも商売で、今まで色々の人にも出逢ったけれど、あんな凄い人を唯の一度も見たことがない。