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ひだのかいだん
飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選
岡本 綺堂
Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.
N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens
赤児は恐らく重蔵の胤であろうと思われるが、男の生死は一切不明であった。
それから二十余年の間、彼女は此の窟を宿として、余念もなく赤児を育てていた。赤児も今は立派な大人になって、其名を重太郎と呼ぶそうである。で、此の母子は何に因って衣食しているか判らぬが、折々に麓の駅に現われて物を乞うのを見れば、先ず一種の乞食であろう。勿論、これまでにも警官から度々立退を命ぜられたが、今日逐われても明日は又戻って来るという風で、殆ど手の着け様がない。駐在所でも終末には持余して、彼等が悪事を働かない限は、其ままに捨てて置くらしい。
虎ヶ窟は其昔、若き恋に酔えるお杉と重蔵との隠れ家であった。彼女は今や白髪の嫗となっても、思い出多き此窟を離れ得ぬのであろう。
で、単に是だけの事ならば仔細も無いが、このお杉婆に就て又もや一種の怪しい風説が起った。と云うのは、この母子が折々に里へ出て物を乞う時、快く之に与うれば可矣、若し情なく拒んで追い払うと、彼等は黙って笑って温順く立去るが、其家は其夜必ず山に襲われて、鶏か稗かを奪われる。或は偶然かも知れぬが、其間に何かの関係が有るらしくも思われるので、人々は自ずと此のお杉を忌み且恐るるようになった。