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ひだのかいだん

飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選

岡本 綺堂

Read 飛騨の怪談 新編 綺堂怪奇名作選 (ひだのかいだん) by 岡本 綺堂 (おかもときどう) in Japanese with furigana. JLPT N2. Tap a word for the meaning.

N2 · advanced · modern kanji and kana · 130,271 characters · 263 screens

Aozora Bunko

」

「はあ、酷い目に逢いましたよ。」

「怪我でも為すって……。」

「何、若旦那は何うも為ねえが、大事の洋犬を殺られたので、力を落していなさる様だよ。」

お葉は首肯いて奥を覗いた。七兵衛は無頓着に落葉を掃いていた。

この時恰も市郎の姿が見えた。市郎は庭の空地にトムの亡骸を葬り了って、鍬を片手に奥の方へ行くらしい。お葉は其姿を見ると共に、有合う小石を拾って投げ付けると、礫は飛んで市郎の袂に触れた。振返ると門前にはお葉が立っている、加之も笑を含んで小手招ぎをしている。市郎も其の図迂図迂しいのに少しく惘れた。

前にも云う如く、市郎が冬子の兄忠一と連立って、彼の柳屋に遊んだのは、今から三四ヶ月前のことで、それも唯一度、別に深い馴染というでもないのに、其後はお葉が兎かく附纏って、往来で逢えば馴々しく詞をかける。あわ好くば自分の家へ誘い込もうとする。随って根も葉もない噂も立ち、吉岡の母にも有らぬ疑惑を受ける様になった。実に馬鹿馬鹿しい。身の潔白を立てる為には、今後何処で行逢おうとも決して彼女とは口を利くまいと、窃に決心している矢先へ、恰も彼のお葉が現われた。加之も先方から真白昼押掛けて来て、平気でお出でお出でを極めるとは、図迂図迂しい奴、忌々しい奴と、市郎は惘れを通り越して、稍勃然とした。