Japanisch lesen

Japanische Klassiker mit Furigana

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わすれのこりのき

忘れ残りの記

吉川 英治

Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.

N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme

Aozora Bunko

ほかの連れは、彼を見るやいなやみな逃げてしまい、ぼくだけ一人逃げ損なってしまった。もう逃げられないという気が、ぼくを盲目にしていた。ぼくは二三度、肩かどこかを小突かれたように思う。学校カバンを肩に掛けていたが、片手に草履袋という物を提げていた。校内で履く革草履で頑丈に鋲が打ち並べてあり、いわば上の無い靴みたいな物である。やにわに、ぼくは跳び上がッて、その草履袋で相手の顔をいやというほど撲ったのだ。チビのぼくに相手は油断していたのだろう、わっと、恐ろしい声を発して、顔をおさえた。彼は近眼鏡をかけていたので、眼鏡のツルが片耳にぶら下がり、そして、顔を掩った両手の肱にも血がながれていた。

ぼくは青くなって逃げ帰り、家の中に小さくなって竦んでいた。あんのじょう、やがて顔見知りの芋屋のおばさんが息子を引っぱって来て、母へ何か怒鳴り出した。大きな図ウ体をしながら、息子の方はわんわん泣いている。まだ顔の血もよく拭き取っていない上に、元から近眼なので、ほんとに眼がつぶれたように見えた。芋屋のおばさんは「片輪になったらどうしてくれる」というようなことを母へしきりに猛っていた。