Japanische Klassiker mit Furigana
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わすれのこりのき
忘れ残りの記
吉川 英治
Lesen Sie 忘れ残りの記 (わすれのこりのき) von 吉川 英治 (よしかわえいじ) auf Japanisch mit Furigana. JLPT N2. Tippen Sie auf ein Wort für die Bedeutung.
N2 · Fortgeschritten · moderne Kanji und Kana · 193.050 Zeichen · 383 Bildschirme
堪ろうはずはなく、ぼくはちょうど富坂の登りへかかった辺で電車線路へころがり落ちた。
非はぼくにあって、先方にあるわけではない。けれど自分の醜態に自分でかっとなったものだろう。大勢の乗客の眼に嘲われた気もしたのである。起き上がるなりぼくは電車の影を目がけて追っ駈けていた。富坂のあの登りである。電車ものろいがぼくも息をきらした事だった。じつに冷や汗ものである。いま考えても、そのとき追いつけなくてよかったとつくづく思う。もし追いついていたら心にもない狂態をやっていたかもしれない心理だった。これ以外には、自分から手出しの喧嘩をする気になったことはない。ただし、兄弟同士はまたべつだ。弟や妹には、正直、手を上げたこともある。けれどこれは喧嘩でなく、愛情の変形というものだった。そんなつきつめたばあい以外、兄弟喧嘩らしい兄弟喧嘩も、大人になってから以後は、ぼくらはやったことがない。
嗜好とか性癖などは、大人になってからよりも、案外、年少の日からもう持ち初めているものではないかと思う。
少年の日、ひそかに好きだった同窓の少女や近所の子や、また行きずりに見つつも好きなと思う少女たちを回顧してみると、ふしぎにみなその型が一つである。